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いつも喉が渇いている

いつも喉が渇いているいつも喉が渇く、水をいくら飲んでもやっぱり喉が渇いた感じが改善しないという疾患はいくつかあります。「いつもだるい」の項でお伝えしたように、一つの症状が一つの疾患に対応しているわけではなく、「いつも喉が渇く」と「いつもだるい」「体重が急に増える、減る」がセットで起こっていることも多いのですが、喉が渇くことがまず最初に起こる症状である内分泌疾患を挙げてみると、1)尿崩症(腎性、中枢性)、2)副甲状腺機能亢進症 3)糖尿病 4)甲状腺機能亢進症 5)副腎機能低下 あたりが内分泌疾患には特徴的です。それぞれの疾患について軽く説明します。

1) 尿崩症

血液はNa+, K+,Cl-その他多くの電解質が含まれていて、それらの濃度と血液全体の浸透圧、そして全体の体積がある狭い範囲に常に補正されて保たれていることが、神経の伝達にも血圧の維持にも必要です。そこで正常ではバソプレッシン(抗利尿ホルモン=ADH)が、脳の視床下部からの信号により下垂体から分泌されて、血流に乗って腎臓に到達し、遠位尿細管に働きかけて、尿細管まで流れてきた水分を必要な分だけ再吸収して身体に戻し、余剰水だけを尿として体外に排泄しております。私たちは平均では一日に1.5Lの尿を排泄していますが、腎臓にやってきて尿になりかけた水分はその100倍の150Lもあり、しかしその水分は身体に必要なので尿にしないようにとのADHの指令によって、尿として排泄されずに身体に戻っているのです。ところが、ADHが十分に分泌されない(中枢性尿崩症)や、ADHは分泌されたけど腎臓のADH受容体が十分に反応しない(腎性尿崩症)といった事態になると、身体に必要な水分がどんどん尿として外に出てしまうので、身体に水分が足りなくなり、喉が渇きます。
放置していると水分が足りないので体重が急激に減りますし、脱水や電解質異常で死亡もあり得ます。ただし、ADHは点鼻薬で投与できるので、中枢性尿崩症なら点鼻薬や、ADH分泌促進薬(いくつかあります。)投与で治療できます。そしてなぜか、中枢性尿崩症では何故か冷たい水を飲みたくなるのです。(腎性の尿崩症では水は飲みたくなりますが、温水でも冷水でも個人の好みによるだけで、特に冷水が飲みたいわけではないのです。)
これに対して腎性尿崩症の場合はADHを投与しても効果はないので、水分を大量に摂取することで失われた水分を補うしかありません。
他に、心因性尿崩症もあります。これは実際には視床下部も腎臓も全く問題がないのに、喉が渇いた気がして水を飲み続けます。精神的な疾患だといえます。過剰に水を飲み続けてその結果血液の電解質濃度が低下すると、神経伝達がうまくいかなくなることがあります。また水分の体積過剰で血圧が上がりすぎたり、むくんだりします。この疾患身体の異常はないので、水の飲みすぎをやめることができればすぐ改善します。

2) 副甲状腺機能亢進症

副甲状腺機能が亢進すると高カルシウム血症になります。「いつもだるい」の項で説明しましたようにCa濃度が高くなると喉が渇いて水を飲みたくなります。高カルシウムでは神経伝達に異常が生じて脳の思考や四肢の動きに異常が出て生命活動に支障がでるので、喉が渇いて水が飲みたくなるのは、カルシウムを排泄し水分を取り込んで血中カルシウムを薄めようとする生体の保護機能でもあると思われます。高カルシウム血症の原因は様々です。「いつもだるい」の項で説明しましたように、副甲状腺機能亢進症は副甲状腺ホルモンPTHが過剰に分泌されることによって起こります。これはPTHを何らかの方法で抑制すればいいので完全に治療できることが多いです。
他に、ビタミンD3の過剰摂取で高カルシウム血症になっている人も多いですがこれは過剰摂取をやめれば改善します。ビタミンDを服用されている方はたまには血中濃度が適正かどうかを医療機関で測ってみることをお勧めします。
高カルシウム血症で一番問題なのは様々ながんの末期にPTHrP(PTH関連蛋白)という物質が産生されることです。PTHrPはどんながんでも共通してがん細胞から産生されることが多く、これはPTHと一部しか遺伝子配列が似ていない(最初の34塩基が同じというだけ)のに、PTHと同じ働きをするのです。即ち、骨を溶かしてカルシウムを血液中に供給し、腸管からも腎臓からもカルシウムを吸収して血中に送り続けます。先にお話した原発性副甲状腺機能亢進症で過剰に作られるPTHは、血中のカルシウム濃度を無視しているとはいえ、少しは気にかけていてめちゃくちゃな値になることはあまりないのですが、がん細胞から作られるPTHrPは本物のPTHと違って節操がゼロで、血中カルシウム濃度がどのぐらいなのかには全く関心がありません。大量のがん細胞からPTHrPはどんどん分泌されるので、カルシウム値の上昇は際限なく、放置すると高カルシウム血症で死亡します。しかし、これは背景にがんがあるためにがんをコントロールしないと根本解決にはならないものの、カルシウム濃度だけなら様々な方法によってコントロールできるので、きちんと管理すれば少なくとも高カルシウムが死因になることはありません。ただ、このPTHrPを「だるい」の項に書かなかったのは、高カルシウムだけでなく、そもそもがんによってだるいこともあるので、状況が非常に複雑だということが理由です。

3) 糖尿病

これもまた「だるい」の項で書きましたが、糖尿病は膵臓から作られて分泌されるインスリンというホルモンの相対的不足が原因です。つまり、たくさん食べるとたくさんのインスリンが必要なのに、大食の人が小食の人と同じぐらいしかインスリン分泌が認められなかったら、インスリンが分泌されていても小食の人には正常な分泌量といえますが、大食の人には分泌が不足している状態です。インスリンが不足すれば、インスリンによって細胞内に糖分が十分に取り込まれないために血糖値は上がります。すると血液の浸透圧があがりますので、生体は浸透圧を正常に保とうとして水分を欲します。つまり、高血糖では喉が渇くのです。そして尿からも糖を排泄しますが、この時に水分も排泄されるので、より喉がかわきます。SGLT2阻害剤という分野の薬は、尿に糖をたくさん混ぜて捨てるというシステムの薬で、糖尿病の薬として非常に有用ですが、尿から糖を排泄する際には水分も大量に排泄します。SGLT2阻害剤を使わなくても糖尿病ではそもそも多尿ですが、使うことで喉がより渇き、より多尿になります。

4) 甲状腺機能亢進症

甲状腺機能亢進症では代謝が活発になりすぎると「だるい」の項で書きましたが、常にかっかと燃えているような代謝状態なので、発汗も多いですし、代謝によって排泄される水分も多いです。新たな代謝のために常に水分を欲します。このため、常に喉が渇きます

5) 副腎機能低下症

副腎でつくられるホルモンは色々あるのですが、中でもアルドステロンの産生、と分泌が低下すると、腎臓でKを排泄してNaを再吸収する機能が低下します。その結果、高カリウム血症を発症します。カリウムは、元々血中濃度がナトリウムなどに比べると20分の1以下なので、僅かな濃度の変化が神経伝達に大きな異常をもたらします。その結果、筋肉痛だけでなく心停止を起こすことがあります。他の電解質異常でも高度な場合には心停止は起きますが、Kは元の値が小さいので少しの変化が大変な結果をまねきます。例えばナトリウムは140mEq/Lあたりが普段の値なので143に上がったとしてもその程度では全く命には関わりませんが、普段5mEq/Lのカリウムが、急に8になると、その変化速度にもよるのですがそれで心停止なども起こりえます。そこで、K値が少しでも上がると非常に喉が渇いて水を飲みたくなります。それによってK値を下げようとする、命を守るシステムが作動しているからです。

まとめ

喉が渇く、という事象だけをとってもそれは身体のアラームであって、水分を摂取することで命を守るように脳が指令をしているのです。病気でなくても、暑くて大量に汗をかいた後で喉が渇くとか、お酒を飲んだ後で喉が渇くとかはみなさま経験されたことがあると思います。(アルコールで抗利尿ホルモンの働きが抑制されるので本来身体にためておくはずの水分が尿として外に排泄されてしまい、水分不足になって非常に喉が渇いたり、悪酔いしたりするのです)。このように大体の場合は喉が渇いた時は素直に水分を摂取することが命を守ることにつながるのです。(例外として心因性多飲の場合だけは水を飲み過ぎないことが命を守ります。)いずれにしても、ご自分がいつも喉が渇いていつも水を飲み続けずにはいられないかもしれないと思われる方は何か原因がないかを検査することをお勧めします。