もちろん暴飲暴食をすれば体重は増え、食欲が細ければ体重は減りますが、「食べてないのに急に体重が増え続けている」「食べる量は倍増しているのに体重がどんどん減り続けている」「特に何も生活が変わっていないのに体重が数か月で20kg増えた(減った)」などは何らかの疾患が潜んでいると考えてよいでしょう。20kgでなくても10kgでも5kgでも、その変化が短期間で起こったなら問題です。(1~2kgの変化は日々起こっていますので気になさらなくて大丈夫です。)
もちろん、大腸の炎症性疾患があって、食べたものがうまく消化吸収されないとか、感染症やがんによってエネルギーが消耗されているなど、色んな病態があり得ますが、ここでは内分泌疾患の側面から考えます。
体重が急に過激に減る、増える、ということが起こりがちなのは、1)甲状腺機能低下症(食べてないのに体重が増えます)、2)甲状腺機能亢進症(食べる量増大でも体重が減ります)、3)糖尿病(太っていることを契機として発症することも多いですが、本格的に増悪すると急に痩せます)、4)副腎機能低下(急に痩せます)5)クッシング症候群、クッシング病(特徴的な太り方をします)についてお話します。
1) 甲状腺機能低下症
先に「いつもだるい」の項でお伝えしましたが、甲状腺機能低下症では、代謝速度が遅くなるので、脂肪を分解できずに身体に付くことや、水の代謝が悪くむくんでいる(身体に余分に水分をためている)ことから体重はとても増えます。特に水分蓄積による体重増加は治療開始後急速に改善できるので、治療開始数日で体重が20kgも減少した(胸水、腹水、その他身体にたまっていた余分な水分が排泄された)患者さんもいらっしゃいました。なお、甲状腺機能低下状態ではコレステロールや血糖値も上がっておりますが、これらも治療開始で本来の値にすぐ戻ります。
2) 甲状腺機能亢進症
これは代謝回転が速くなりすぎる疾患で、エネルギー消費が常に過剰な消費状態にありますから急激にやせます。2か月で10kgや20kgやせるというのも普通に起こります。また常に汗ばんでいて動悸がするということも特徴的です。
3) 糖尿病
これはインスリンの相対的不足(量は出ているかもしれないが、その人に必要な量はでていない)による内分泌疾患であることは他の項でお話ししました。太っていることを契機として発症しやすいのですが、本格的に糖尿病が悪くなると急激に痩せます。というのは、太っていてたくさん食べる人はインスリンの必要量が標準体重の人より多いのです。その場合必要な大量インスリンが分泌できないとすると、たとえ痩せていて糖尿病でない人よりもたくさんのインスリンを分泌していたとしても、血糖値を正常範囲に保つことができず高血糖になります。即ち、糖尿病です。高血糖になり、血糖値を下げるために膵臓ががんばってインスリンを産生しようとしますが、常に過剰にはたらかされるので、ついには膵臓が疲弊してしまってインスリンをますます作れなくなり、細胞にエネルギーを取り込んで生命活動に使うということができなくなるので最終的には非常に痩せます。今お話ししたのはII型糖尿病の話です。ところで糖尿病にはI型糖脳病もあって、これはインスリンがほとんど作れない状態(先天的な場合もありますが、後天的に、ある日突然インスリンに対する抗体ができてインスリンが作用できなくなったりします。)に陥るので、細胞がエネルギーをもらえないですから発症時から急激に痩せます。総じて、重度の糖尿病になれば痩せるのです。糖尿病である期間が長いか短いかは関係ありません。
4) 副腎機能低下
別の章でお伝えしたように、副腎でつくられるコルチゾールは血圧や血糖値を維持して生命活動を維持させてくれるホルモンですから、副腎機能が低下すると血糖値が下がり過ぎて細胞にエネルギーが届きません。血流も減るので更に細胞に届くエネルギーは減ります。従って、副腎不全では非常に痩せますし、細胞活動が十分できないので免疫状態も落ちます。なお、コルチゾールは筋肉をつくるところにもかかわっているので、脂肪だけでなく筋肉もやせて、全体として無力症のような体形になります。ところで副腎でつくられているホルモンは他にも多数あるので、血中のK値が高値になったりと、他にも様々な症状が認められます。副腎機能低下の原因は、下垂体からコルチゾール産生の指令を出すACTHが出ないことである場合もあれば、指令はきていても副腎が働かなくなっている場合もあります。いずれも、コルチゾールを適切な量、薬として飲むことで治療できます。
5) クッシング病、クッシング症候群
先の章に副腎のコルチゾールは足りないと大変だと書きましたが、それではたくさんあればいいのかというとそういうこともなく、多すぎる疾患がクッシング病、クッシング症候群です。下垂体からACTHが出過ぎて、副腎にコルチゾールを作る命令をしすぎるのがクッシング病で、下垂体は正常だけど副腎が勝手にコルチゾールを過剰に作り続けるのがクッシング症候群です。クッシング病は下垂体に腫瘍があることで周囲の脳組織を圧迫することがあり、それに関連した症状も認められることがあり、下垂体症状はないのがクッシング症候群です。いずれにしてもクッシング病もクッシング症候群も、コルチゾールの過剰によって同様の症状が出ます。体重は増加しますが、その太り方が特殊です。具体的には、中心性肥満といって、手足が細いのに体感部分だけ太ります。まず、顔が丸々と太ります(満月様顔貌)。それからお腹に脂肪が非常に付き、背中の上部から首の後ろに厚く脂肪が付きます。野牛肩といわれる体形です。また、皮膚が菲薄化して赤みを帯び、皮膚の赤色線状も、腹部などにできます。そしてステロイド(コルチゾール)過剰になると免疫を司るT細胞,なかでもCD4陽性ヘルパーT細胞(Th)が低下しますので、異物に対する抗原提示能力が落ちます。即ち、細菌などが体内に侵入した時に「こいつ悪い奴ですよ!」と、異物をみつけて他の細胞に教えて、それによってさまざまな細胞が集まってきて異物を攻撃して最後には分解することで免疫状態は保たれているのですが、そもそも提示能力が落ちると誰も攻撃しないことになってしまうので免疫状態が落ちて、感染症にとても掛かりやすくなります。なお、食欲も増進して、20kg程度の体重増加は普通に起こります。なお、コルチゾールを過剰に分泌する原因は、良性の腫瘍から分泌の場合もありますし、がんが分泌している場合もあります。
まとめ
BMI22あたりが日本人では最も生存率がよいのですが、BMIの計算式は
体重(kg)/身長(m)2 です。
食べ過ぎて太ったとか、食欲なくて痩せたとかではなく、特に原因が思い当たらないのに急に痩せたり、急に太ったりした場合は精密検査をお勧めします。
なお、原因が分かっていて太ったり痩せたりしている場合(食べすぎとか、食欲がずっとないとか)はまた内分泌疾患とは別ですが、生活習慣病などの可能性を考えて検査をお勧めします。