私を忘れないで。実はまだそこにいるコロナ。
日々診療をしていて体感するのは、7月中旬あたりからCOVID-19(コロナ)陽性の患者さんが激増しているように思います。それまでは発熱外来でコロナ陽性率は少なかったのですが、急に半分ぐらいの患者さんが陽性を示すようになりました。しかし抗原検査で陰性だけれど症状から見ておそらくCOVID-19であって、もしかするとウィルス量が今はまだ少ないから検査で偽陰性が出ているのではないかと思われる症例も、ちらほら見受けられるので、より正確な検査をするためにPCR検査機を私共のクリニックでは導入しました。
ここで視点を変えて、ウィルスの気持になってみましょう。感染して取り憑いたヒト(宿主)がすぐに死んでしまったら、ウィルスは単独では生きられないのでしばらくすると死んでしまいます。そこでウィルスとしては、できるだけ宿主を殺さないでより長く感染していたいし、チャンスがあれば他のヒトにも感染してより子孫を増やしたいでしょう。
なので、より毒性が低くて、より感染力が高いウィルスが、数を増やして栄えそうです。とはいえ、遺伝子の変異はランダムに起こります。なので、後に広まらなかったとしても猛毒ウィルスがある場所で生まれて、感染力が強いので細々と増殖するということもあり得ます。従って、あなたやわたしの感染したウィルスがたまたま毒性の強いウィルスだという可能性もあるわけです。「コロナなんてもう平気」と、あまり過信し過ぎないことも大切です。
2024年6月30日における日本のコロナウィルス株は、多い方からKP3.3, XDQ.1, XDQ.1.1, KP2, KP3.1 です(東京都健康安全研究センター調べ)。例えばこの、今一番多いKP3.3株については、過去に多かったJN.1株から変異してできていますが、このJN.1株からしてオミクロン株から変異したもので、オミクロン株ウィルスから既に30ヶ所以上変異しています(2023年12月WHO調べ)。そしてKP3ウィルスは、より少ないウィルス量で高い感染効率を示します。更に、オミクロン株に対するワクチンを回避する力が有意に高くなっています(東京大学医科学研究所のThe Genotype to Phenotype Japan調べ)。一方、KP3株では従来ウィルスに比べて毒性(重症化リスク)は上がってはいないようです。つまりは、最近多いコロナウィルスは、やはり感染力がパワーアップしていること、毒性はパワーアップはしていないようだということがわかります。
コロナがパンデミックになってはや4年半、今では5類になって私たちはコロナに慣れ過ぎている感もありますが、恐れる必要はないものの意識して避ける必要はあります。ここでいきなりですが日本における死亡率の推移をみてみます。
戦前は腸チフスや結核など感染症が主な死因でしたが、衛生環境、薬の進歩、栄養環境の改善によってこれらは克服され、毎年平均寿命は伸びる一方でした。
しかし戦後に2回だけ平均寿命が前の年よりも下がった時があります。それが1回目は東日本大震災、2回目がコロナの影響です。
皆様も記憶に新しいと思いますが、2020年初頭にコロナウィルスのパンデミックが発表され、緊急事態宣言が発出され、皆が戦々恐々としていた時がありました。しかしながらこの年のコロナ死亡数は9367人で、実は日本は2020年に、その前の年より平均寿命が伸びました。厚生労働省の推測では、この平均寿命が伸びた理由は、皆が外に出かけなくなったので海や山の事故も交通事故も減り、そしてコロナを予防すると同時にインフルエンザ感染も予防されたためと考えられています。なお、この年は世界中がコロナの影響で平均寿命が激しく下がったのに日本だけが平均寿命を伸ばしたということに世界が驚いたものでした。
しかしもちろん、現在は2020年当初と違って、2024年の私たちはコロナがどんなものであるかを知っていますし、治療法も予防法も確立しているのでむやみやたらに恐れる必要はなく、正しく避けつつ自由な日常を送りたいものです。そもそもコロナを恐れるあまり外出せず医療機関にも行かなくなった時期に自殺者やがん死亡人数が有意に増加したことを考えると、コロナ以前の自由な生活を取り戻すことの大切さも改めて実感します。
自由な生活と感染予防を両立させるという良いとこ取りをするためにはどうしたらいいでしょうか。私のお勧めは、行きたいところには行ってやりたいことをやりつつも、「帰宅後はすぐうがいと手洗い」「特に目を手で擦ったり、手でパンやお菓子を食べたりするのは手を洗ってからにする」「不特定多数の人が密集している場所ではできればマスク装着」をお勧めします。更に、携帯電話にもたくさんの菌やウィルスが付いていると思われるので、携帯電話を毎晩一回70%アルコールで拭くというのも感染予防に効果があるのではないかと考えております。実際のところ、紙についたウィルスは3時間、銅製のコインでは6時間、段ボールでは1日、木や布では2日、ガラスや紙幣では4日、プラスチックやステンレスでは7日間までウィルスが生存している可能性があるようですし。
環境表面種類 | 感染力保持時間 |
---|---|
ステンレス鋼表面 | 7日 |
木材表面 | 2日 |
紙・ペーパー表面 | 3時間 |
ティッシュペーパー | 3時間 |
ガラス表面 | 4日 |
プラスチック表面 | 7日 |
衣類 | 2日 |
紙幣表面 | 4日 |
マスク内側 | 7日 |
マスク外側 | >14日 |
滴下ウイルス量:ウイルス量:107.8 pfu/ml を5μl滴下
保持温度:22℃
【出典】日本リスク学会 環境表面のウイルス除染ガイダンス(花王のホームページより)