膵臓にいい食べ物とは?慢性膵炎患者さんに適した食事のポイントを解説
膵臓は食べ物の消化吸収や血糖コントロールに関与する臓器で、膵炎を始めとした膵臓の病気では、食事への配慮が必要になることがあります。
特に慢性膵炎の腹痛がある場合には、食事の選び方によって症状を和らげたり、病状の進行を防ぐことにつながります。
この記事では、慢性膵炎の患者さんに向けて、腹痛の症状を抑えて膵臓の負担を減らす「膵臓にいい食べ物」の具体的な選び方を紹介します。
生活習慣の見直しポイントについても紹介していますので、是非参考にしてくださいね。
膵臓の働きと膵臓の病気について
膵臓は食べ物の消化を助ける消化酵素や血糖値をコントロールするホルモンの分泌に関わる臓器で、栄養素の代謝を正常に保つ役割を担っています。
膵臓の病気でその働きに異常が生じると、栄養素の消化吸収や血糖コントロールに異常をきたし、健康に大きな影響を及ぼします。
膵臓の病気には、急性膵炎、慢性膵炎、膵臓がんが挙げられます。
膵臓の働きと、膵臓で起こりうる疾患の概要を紹介します。
膵臓の働き
膵臓の働きは大きく2つに分けることができます。
ひとつめは、食べ物を消化する消化液を作る働きです。
アミラーゼ、リパーゼ、トリプシンといった消化酵素を含んだ膵液を十二指腸へ分泌し、食べ物の消化を助けています。
ふたつめは、血糖値の調節に関わるホルモンの分泌です。
インスリンやグルカゴンといった血糖調節ホルモンを産生し、血糖値の調節を行っています。
急性膵炎の症状、原因、治療
急性膵炎は、膵臓で作られる消化酵素によって膵臓が自己消化されてしまう疾患です。
症状は激しい腹痛のほか、吐き気・嘔吐や発熱などが見られることもあります。
急性膵炎は大量飲酒による膵臓の機能低下や、胆石によって膵液の出口が塞がれることが原因でおこります。
急性膵炎の治療では、はじめは絶食で膵臓を安静にし、輸液による栄養素の補給のほか、鎮痛薬の投与、必要に応じて胆石の除去治療が行われますが、腸に問題がなければ比較的早い段階から通常の食事摂取が再開されます。
慢性膵炎の症状、原因、治療
慢性膵炎とは、膵臓の正常な細胞が破壊され、徐々に繊維組織に置き換わる疾患です。
慢性膵炎は徐々に進行する病気で、病期によって症状が異なります。
潜在期から代償期では、腹痛や背中の痛み、急性膵炎の発作が起こります。
移行期から非代償期では、腹痛は徐々に弱まりますが、膵臓の機能が低下し、消化不良による下痢、体重減少、糖尿病の発症などが起こります。
慢性膵炎の原因となるのは長期間にわたる多量の飲酒で、これにより急性膵炎を繰り返すことで膵臓の正常な細胞が徐々に減っていくことで発症します。
また、遺伝的な原因によるものや、原因が不明なものも少なくありません。
40~50歳代での発症が多く、男性ではアルコール性が8割を占めています。女性では原因がわからない特発性が多いものの、アルコール性が4割を占めています。
慢性膵炎の治療では、飲酒などの原因の除去、病期に適した栄養療法、必要に応じて鎮痛薬の投与や外科治療、消化を助ける薬の服用、糖尿病の治療などが行われます。
慢性膵炎は徐々に進行する病気で、基本的に完治することは無いとされていますが、早い段階で適切な治療を受け、原因を取り除くことで進行を止められることもあるとされています。
慢性膵炎を放置すると、膵臓がんの原因になることがあります。
膵臓がんの症状、原因、治療
膵臓がんは膵臓の中にある膵管(膵液の通り道)からできるがんで、診断と治療が難しく、再発率が高いのが特徴です。
膵臓がんでは腹痛、背中の痛み、黄疸、食欲不振や体重減少、糖尿病の悪化などの症状が知られていますが、症状が出にくいといわれています。
発症に関わるリスク要因としては、慢性膵炎のほか、糖尿病や喫煙、肥満などが関係していることがわかっています。
比較的早期の場合は外科手術、進行している場合には抗がん剤治療が行われることが多いとされています。
膵臓に負担をかけない慢性膵炎の食事のポイント
膵臓の病気のうち、特に慢性膵炎は病期に合わせた食事療法が重要となる疾患です。
腹痛のある時期は腹痛を起こさないよう、膵臓に負担をかけない食事であることが大切です。
具体的には、以下のようなポイントが大切です。
- 脂質を控える
- 消化の良い食べ物を選ぶ
- 刺激物を控える
- アルコールを控える
また、腹痛がない時期は栄養障害を防ぐため脂質制限はせず、消化を助ける薬を服用しながら十分な栄養を摂取することが大切です。
- 食べすぎ・食べなさすぎを避け、バランスの良い食事をとる
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
脂質を控える
慢性膵炎の初期には、腹痛を防ぐために一時的に脂質の摂取を控えることが大切です。
口から摂取した食べ物が胃を通過して十二指腸へ入ると、消化管ホルモンによって膵臓が刺激されて消化酵素を含んだ膵液が分泌されます。
慢性膵炎では膵液によって膵臓の細胞が自己消化されるため、膵液の過剰な分泌は腹痛の原因になります。
食事に含まれる栄養素の中でも、脂質は膵液を分泌させる働きが特に強いことから、腹痛を防ぐために脂質の制限が効果的です。
腹痛や背部痛がある場合には、摂取する脂肪分を1食あたり10g以下、1日あたり30~35gに制限する脂質制限が行われることがあります。
健康な人における脂質摂取量は60g前後と考えられていますので、慢性膵炎における脂質制限では、脂質は通常の食事の半分程度に制限されることになります。
また、摂取する脂質は肉よりも魚や植物油由来のものが望ましいとされています。
脂質制限では、脂質の少ない食材および調理法を選ぶことが重要です。
季節的には、冬の時期は脂質の多い食事が好まれやすいため、意識して低脂質な食事を心がけることも大切です。
ただし、長期的な脂質制限は必須脂肪酸やビタミンなどの必要な栄養素の不足のおそれがあるため、脂質制限は腹痛の症状があるときだけなど、短期間に留めることが重要です。
消化の良い食べ物を選ぶ
慢性膵炎で腹痛の症状があるときには、消化の良い食べ物・メニューを選ぶことを意識しましょう。
消化の良い食事を摂ることで、胃に長い時間滞留せず、膵臓を刺激する胃液の分泌が少なく抑えられます。
治療の一環として、脂質を控えた栄養剤が処方されることもあります。
慢性膵炎の腹痛予防の観点から考えられる消化の良い食べ物とは、以下のような要素を満たした食事です。
- 炭水化物を主成分とした食事
- 脂質の少ない食事
- 食物繊維の少ない食事
- 柔らかい食感に仕上げたもの
このうち食物繊維について、一般的に食物繊維は食事が胃の中に滞留する時間を伸ばす作用があり、消化に良くないとされています。
一方で、食物繊維のうち水溶性食物繊維に関してはコレステロールの排出を促し、膵炎の原因となりうる胆石の予防に働く一面も知られています。
腹痛がある時の食事には食物繊維を多く含んだ固い食感の食事は避けるのが安心ですが、そうでない時期には再発予防のために食物繊維を積極的に摂ることがおすすめです。
刺激物を控える
慢性膵炎による腹痛発作の予防のために香辛料やカフェインを多く含む食べ物・飲み物は控えましょう。
香辛料やカフェインといった刺激物は胃酸の分泌を促し、膵臓への刺激を増やすことから、慢性膵炎の腹痛の原因となります。
以下のような食品については、なるべく摂取量を少なくすることを心がけましょう。
- 辛いもの(唐辛子、ワサビ、カラシなど)
- 酸味の強いもの(酢、柑橘類、パイナップル、梅干しなど)
- カフェインを多く含むもの(エナジードリンク、眠気覚ましドリンク、コーヒーなど)
料理は薄味や優しい味のものを、飲み物はノンカフェインのものを意識して選ぶようにしましょう。
アルコールを控える
急性膵炎、慢性膵炎ではアルコールを完全にやめる「断酒」が必要です。
アルコールは膵炎の最大のリスク要因です。
アルコールも膵液の分泌を促すため、膵炎による腹痛発作の原因になります。
膵炎がわかってからも飲酒を続けることは膵臓に負担をかけ続けることになり、膵臓で炎症が繰り返し起こることで症状の悪化や病状の進行を招きます。
断酒をすることで、慢性膵炎の腹痛発作の発症頻度や痛みが弱まり、また進行リスクを低下させることができます。
自分自身だけで断酒が難しい場合には、医療機関の協力を得ることも可能です。
専門の医療機関では「抗酒薬」や「断酒補助薬」などが処方されることがあり、断酒の継続をサポートしてくれます。
腹痛のない時期は食べすぎ・食べなさすぎを避け、バランスの良い食事をとる
脂質制限に伴う栄養素の不足や体重減少を避けるために、腹痛のない時期は暴飲暴食を避けつつ十分な食事摂取が必要です。
慢性膵炎において、腹痛の症状がある時期は脂質の制限が必要ですが、腹痛の症状が収まってからも脂質制限を続けると、必要なカロリーや脂溶性ビタミンが不足する恐れがあることから、脂質やたんぱく質の摂取量を増やすことが求められます。
十分なカロリーと必須栄養素を摂取することで体力や免疫力の低下を防ぎ、長期間にわたる健康維持に役立ちます。
とはいえ、たくさん食べるほどよいということではありません。
暴飲暴食は膵臓へ過剰な負担になりますので、バランスの取れた食事を1日3食摂ることを意識しましょう。
腹痛のない時期の食事における理想の栄養バランスについて、膵炎のない人との違いはありませんが、具体的な内容については医師や管理栄養士に相談すると安心です。
膵臓にいい食べ物・食事とは?膵炎の腹痛予防のための献立例を紹介
慢性膵炎で腹痛の症状がある時期は、腹痛の予防のために一時的に膵臓に負担をかけない食事が望ましいとされています。
具体的には脂質が少なく、消化しやすく、膵臓に刺激を与えない食事が最適ですが、メニュー選びが難しいという人も少なくないのではないでしょうか。
ここからは、慢性膵炎の腹痛予防のためにおすすめのメニュー例を紹介します。
主食・主菜・副菜に分けて紹介しますので、毎食それぞれから1品取り入れることで栄養バランスも整いやすくなります。
紹介する食品以外は絶対に食べてはいけないということではありませんが、脂質の多い食材や刺激の強い食べ物を食べてしまったあとは膵臓に優しい食事を意識するなど、前後の食事で調整を心がけましょう。
また、必要なカロリーを確保するためにも大切な間食の選び方も紹介します。
主食の例
主食とは、ごはん、パン、麺類など、主に炭水化物の摂取源となる料理のグループです。
膵臓に負担をかけない低脂質で消化の良いメニューには、以下のようなものが挙げられます。
- おかゆ
- 素うどん
- 白米ご飯
- そうめん
- 食パン
おかゆ、やわらかめのうどんは特に消化されやすく、特に負担の少ないメニューです。
一方、脂質を多く使って調理されるチャーハン、ラーメン、焼きそば、パスタ、惣菜パン(カレーパンなど)、菓子パン(クロワッサン、デニッシュなど)などは膵臓に負担をかけるため避けるのが安心です。
また、精製度の低い穀類(そば、玄米、小麦全粒粉、オートミール、押し麦、雑穀など)を使った主食は食物繊維が多く、胃の中に長くとどまって胃酸の分泌を促して膵臓に刺激を与えるため、腹痛症状があるときは控えましょう。
腹痛症状が無いときには、膵炎のリスクとなる胆石の予防に良いことから積極的にとりたい食品です。
主菜の例
主菜とは、肉、魚、卵、大豆製品を主な材料とする「メインのおかず」です。
たんぱく質の摂取源として重要なメニューですが、油脂分の主な摂取源にもなるため、食材の選び方や調理方法に注意が必要です。
食材は、脂質の少ない淡白なものがおすすめです。
- 鶏ささみ
- 鶏むね肉
- 豚ヒレ肉
- 豚もも肉
- 白身魚
- えび
- はんぺん
- 豆腐(木綿、絹)
また、調理法は油脂を使わない蒸し調理や茹で調理、焼き料理がオススメです。
味付けは和風だと洋食や中華、エスニック料理と比較して油脂分や香辛料が少ないものが多く、膵臓の負担を減らせます。
これらのポイントを組み合わせたメニュー例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 蒸し鶏和風あんかけ
- カレイの煮つけ
- 湯豆腐(鱈の身を入れてもよい)
もちろん、組み合わせ次第ではこれら以外のメニューも可能です。
鶏肉をはじめとして、脂質の少ない食材はパサつきが気になりやすいので、美味しく食べるには片栗粉をまぶしたり、汁気などで水分を補うような調理法がおすすめです。
一方、脂身の多い肉(鶏皮、バラ肉など)や脂の乗った魚(大トロ、サバ、サンマなど)、加工肉製品(ベーコン、ソーセージなど)、揚げた大豆製品(油揚げ、厚揚げなど)は脂質を多く含むので控えましょう。
副菜の例
副菜とは、野菜、きのこ、海藻、芋などを主な材料とする「サブのおかず」です。
いわゆる野菜のおかずや、汁物などが当てはまります。
野菜、芋、きのこ、海藻類は基本的に低脂質であるため、食材に含まれる脂質が問題になることはほぼありません。
食物繊維についてはあまり気にする必要はありませんが、固い食感のものばかりをとったり、副菜ばかりを大量に食べるのは避けましょう。
脂質制限では脂溶性ビタミンが不足しがちですが、以下のような緑黄色野菜は脂溶性ビタミンのひとつであるビタミンAのもとになるβ-カロテンの摂取源となるため意識して食べることをおすすめします。
- にんじん
- モロヘイヤ
- ほうれんそう
- かぼちゃ
また、調理方法や味付けに関しては、主菜と同様、油脂分を加えない蒸し調理、茹で調理、焼き料理、和風の味付けが最適です。
サラダの味付けにはノンオイルドレッシングを選ぶなどの方法があります。
これらのポイントを組み合わせたメニュー例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 蒸し野菜(温野菜)
- 小松菜の煮浸し
- キャベツのコンソメスープ
- 里芋の煮物
一方、副菜に使われる食材のうち、アボカドは例外的に脂質を多く含むため、避けましょう。
また、調理法や味付けでは炒め物や揚げ物、マヨネーズなどは脂質を多く含むため避けるようにしましょう。
間食の例
脂質制限でカロリー不足が気になる場合には、間食(おやつ)を上手に取り入れましょう。
脂質の少ない間食を取り入れることで、体に必要なカロリーを補うことができます。
- 飴
- 和菓子(団子、ようかんなど)
- せんべい
- ゼリー
- シャーベット
- フルーツ缶詰
一方、脂質を多く含むスナック菓子、チョコレート、洋菓子(ケーキ、クッキー、ドーナツなど)、アイスクリーム、ナッツ類などのほか、消化の悪いドライフルーツなどは避けると安心です。
間食はダラダラ食べるのではなく、時間を決めることで膵臓の負担を減らせます。
膵臓の負担を減らす生活習慣のポイント
膵臓の負担を減らし膵炎の症状や進行を防ぐには、食事だけでなく生活習慣の見直しも重要です。
膵炎の発症や進行に直接的なリスクとなる煙草をやめ、禁煙に取り組むことのほか、睡眠不足を改善し、ストレスをためないような生活をすることも大切です。
食事以外に気をつけたい生活習慣のポイントを紹介します。
禁煙
膵臓の負担を減らすために、禁煙も重要なポイントです。
タバコは膵臓の働きを弱め、慢性膵炎の発症・進行に関連するリスク要因のひとつです。
また、膵臓がんの発症リスクを高める事も知られており、なるべく早く禁煙に取り組むことが推奨されます。
禁煙に取り組むことで、膵臓の負担を減らすことだけでなく、呼吸器や血圧など、全身の健康状態の改善に繋がります。
タバコに含まれるニコチンには依存性があるために、禁煙はなかなか成功しないことが珍しくありません。
禁煙補助薬や禁煙外来を活用することで、禁煙の負担を軽くすることができますので、必要に応じて検討してみてはいかがでしょうか。
睡眠不足やストレスの解消
膵臓への負担を減らすために、睡眠不足およびストレスを解消するように意識してみましょう。
ストレスや睡眠不足は自律神経の乱れにつながります。
自律神経が乱れると膵臓の負荷が大きくなり、慢性膵炎の症状悪化や病状の進行にも悪影響が及ぶことが考えられます。
睡眠不足の自覚がある場合には、普段よりも早く布団に入ることを意識したり、睡眠環境を整えることが大切です。
ストレスをためないためには、睡眠を含めた休養を意識してとり、身体的な疲れを解消しましょう。
また、精神的なストレスには、リラックスする時間だけでなく、趣味を楽しむ時間をとるなどの積極的な休養も重要です。
まとめ
膵臓の病気のうち、慢性膵炎では腹痛の症状を抑えて進行を予防するために食事への配慮が大切です。
腹痛の症状がある時期は主に脂質を抑えた食事内容とし、消化の良い食事で刺激物やアルコールを控えましょう。
脂質制限により必要なカロリーや脂溶性ビタミンなどが不足しやすいため、脂質以外からのカロリーおよび脂溶性ビタミンの摂取を意識することも大切です。
また、長期間の脂質制限は体重減少のおそれもありますので、腹痛の症状がない時期には食事制限をせず、バランスの取れた食事を十分に取ることが必要です。
食事以外では、禁煙に取り組むことが重要なポイントです。
全身の健康状態の維持のために睡眠不足やストレスの解消も意識するとよいでしょう。
慢性膵炎は病状によって必要な食事への配慮が異なります。
実際の食事療法の実施にあたっては、医師や管理栄養士に相談の上、自身の健康状態に適した内容を行うことが大切です。
記事監修
院長 渡邉 秀美代
- お茶の水橋交番横クリニック 院長
- 医学博士
- 総合内科認定医
- 内分泌内科専門医
- 内分泌内科指導医
- 産業医
- JSCTR認定GCPパスポート(日本臨床試験協会)
管理栄養士 平井 しおり
2013年に管理栄養士資格取得後、保育施設に勤務、栄養相談などに従事。
現在は、栄養とダイエットに関する科学的根拠に基づいた情報を発信しています。